下顎前突とは一般に下顎の骨が過剰に成長し前突した状態をいいます。いわゆる「受け口」という状態です。発生率は3〜4%と低いのですが治療を受ける下顎前突の患者さんの割合は高いといわれています。
これは患者さんや保護者の方が、下顎前突は歯並びだけでなく顔貌に大きく関与する疾患である事を自覚しているからだと思います。
つまり「もう少し様子を見ましょう」というのは10%にも満たない淡い期待を込めて保護者に説明をしていたのです。しかし大多数のお子さんには問題を先送りしたことでどんどん重症になっていきます。そうなるとそのまま上顎に対して下顎の成長がどんどん進み取り返しのつかない顔貌になってしまいます。
下顎前突の治療の目的は成長の乱れを正しより良い一生の顔貌を獲得するということです。
下顎前突にもいろんなケースがある
骨格性反対咬合と歯性反対咬合の2種類があります。骨格性反対咬合とは親などの近親者に同じ反対咬合の方がいる、遺伝の可能性があるタイプです。下顎がどんどん過成長していきますので矯正によって上下の咬み合わせが改善されたとしても十分気をつけていかないとまた元に戻ってしまうおそれがあります。
外科矯正も検討する必要性があります。しかし歯性反対咬合とは下顎が問題ではなく上顎の顎骨であったり、上下の前歯の歯列関係(上の歯が後方に傾斜したり下の前歯が前方に突出している)によって発症します。
とくに小児の反対咬合では下顎の過成長は少なく上顎の劣成長を起因とするのが大部分です。乳歯の反対咬合には自然治癒するケースもありますが、逆被蓋の状態では咀しゃくによる発育刺激が上顎骨に伝わりません。
単なる経過観察では上顎骨の発育機会をうばうことになりかねません。本人や保護者の理解・協力が得られるならば「できるだけ早く・見つけたらすぐに」治療すべきだと考えます。咬合の「ひずみ」が起こったのを治療によって本来の成長パターンに近づけることが最大の目的となります。
治療方法について
多田歯科では下顎前突の患者さんに対して下顎の成長を抑制するチンキャップ・上顎の成長を促進させる上顎前方牽引装置といった従来の矯正装置ではなく「ムーシールド」というマウスピースのような「取り外し式の矯正装置」を使用したり、部分的な数本の反対咬合は床装置にて矯正します。この装置のメリットは乳歯の状態の子供さんに対して治療することができ、ワイヤー矯正装置でよくある痛みや違和感をできるだけ防ぐ子供さんにとっては最適な方法だと考えています。
さらに下顎前突で起こってしまった唇・筋肉・舌の不正を正して本来の機能を獲得する装置でもあります。歯だけでなく口の周りの状態を正常な機能に戻すことによって矯正治療後の「後戻り」もかなり防げる事になります。
受け口治療に関する Q&A
大人の歯が生えるときに自然に治ることがあります。ただし、かなり少数派です。反対になっている下の前歯が4本以上、上の前歯がほとんど見えないくらい咬みこんでいる、近親に反対咬合の人がいる、このような場合自然に治る可能性は極めて低いと思います。
「様子を見ても大丈夫ですか?」という質問を良く頂きます。もちろん自然に治る場合はあります。しかしそれはかなり少数です。先生の考え方にもよりますが、私は大半の方に早期の初期治療が必要と考えます。
反対咬合によって発育の障害がでることはありません。しかし、発音の障害(舌足らずのしゃべり方)や食べるときに下の前歯が見えてしまうような特徴が現れます。喋り方にも食べ方にも問題が現れます。しかし、私が治療を勧める第一の理由は審美的な理由です。反対咬合特有の顔貌に劣等感を感じることがあります。心の負担を軽くし、生活の質の向上が目標です。
咬み合わせを逆のままにしておくと下顎が過成長しやすい状態が続きます。下顎が取り返しのつかないほど大きくなってしまう前に逆の咬み合わせは早く治しておくべきだと考えます。早ければ早いほどお子様の負担は軽くて済むと思います。年齢が高くなると治療の選択肢が狭くなります。過成長し、大きくなってしまったら「下顎骨を切断して縮める」という手術法も選択肢にあがってきます。
筋機能のアンバランスが不正咬合を造ります。バランスを整え、調和を取り戻せば不正咬合は回復します。反対咬合の原因の一つは舌が低い位置で機能していることです。ですから治療の一つとして舌を挙上してあげる事が必要になります。そのようなバランスを取り戻す器具が機能的顎矯正装置「ムーシールド」です。主に就寝中に使います。取り外せる装置ですから、患者さまに痛みなど負担を強いることはありません。そのかわりうまく使えなかったり、装置を使用ないと期待する効果が得られない事もあります。
ムーシールド治療法は、たいていの場合およそ1年間を目標に治療します。一度治したら「もう大丈夫」という人が大半です。しかし成長がスパートする年齢のころ、再治療を必要とする場合があります。女子は15〜16歳、男子は17〜18歳ころまで成長します。そのころまで定期健診を続けることが重要です。
顔形はご両親に似ます。残念ながら反対咬合の家系があります。しかし早めに対処することでかなり改善できると考えています。いずれにせよ、遺伝のあるなしにかかわらず、早めの受診をお勧めします。